感動と夢、宇宙への憧れが詰まった漫画「宇宙兄弟」は、読む者の心を揺さぶる名作
漫画「宇宙兄弟」は小山宙哉先生による宇宙への憧れがつまった感動と学びの多い作品です。2007年から講談社の雑誌モーニングで連載を開始し、2024年7月まででコミックは44巻に達しています。
私は19巻までKindle版で購入していたのですが、これはペーパーバックでも残していきたいと、もう一度紙媒体のコミックを買い直しました。
夢を追い求める漫画は沢山ありますが、宇宙兄弟は沢山の感情(喜怒哀楽)が詰まっています。その人間味から沢山の事が学べます。そのお勧めポイントを以下の9つのポイントでまとめてみました。
なるべくネタバレ無いように紹介していきます。
1.夢を諦めない重要性
宇宙兄弟から学ぶ最も大切な事、それは「夢を諦めない重要性」につきます。この言葉はどこにでもある、誰でも言いそうな言葉だけに、1巻からさっそくやってくるこのテーマへの挑戦は、本当に素晴らしい展開だと感じます。
小さいころに思い描いた夢は、大人になるにつれて周りが見えてきたり、知識が増えていく事で時に恐怖と感じることがあり、徐々に夢を語らなくなり、いつの間にか忘れて、今の自分でできる事を探し始めます。
しかし、主人公の「六太(ムッタ)」は、1巻からネガティブ全開です。
このネガティブさの裏に「まだ夢をあきらめていない」という事があるのですが、「ムッタ」の周りには彼の夢を後押ししてくれる人が沢山います。本人はダメダメ言う。けれども周りは後押しをしてくれる。ここには夢を諦めていないという裏腹な行動が見え隠れしています。
スポーツ選手や格闘家、ノーベル賞受賞など人と違う道を究めた人たちからは「夢を諦めない」という言葉をよく聞きます。それだけ日常的に夢を諦めさせるものが沢山横行しているとも言えます。楽な道や誘惑も沢山ありますが、あきらめないような環境を作るためには自分が言い続ける事も大事です。「ムッタ」がどうやったか、是非読んでほしいです。
2.失敗を次に生かす
この物語はいきなり失敗から始まります。しかし「ムッタ」の人柄や彼の努力によって失敗がまさに成功への原動力となり、その失敗だったことすら後から成功に切り替わっていきます。人間には必ず何度も大きな壁がやってきます。その壁を登ろうとする人は実は非常に少ないです。なぜなら避ける回り道が沢山あるからです。そして、ほとんどの人たちがその道を選んで回っていくのですが、ムッタや弟のヒビトはその壁を登り始めます。面白い事にムッタは自分では求めていないのになぜか上る事になるのです。自分で選択はしているのですが必ずと言っていいほど大変な道を選ぶのです。
この岐路での選択は物語の中で沢山出てきます。大抵の場合、失敗や不運に見舞われてそうなります。しかし、それを受け入れ解決しようという心が、その道を選ばせようとしているという事に気づきます。この選択はなかなか普通の人にはできません。ムッタの選択はこの物語を読めばだれでも簡単にマネできます。成長したい方は是非マネしてほしいです。
3.兄弟という関係が生む成長
この兄弟は既に小さいころから勇気と情熱にあふれていたと思います。多感な小学生の時に兄弟でよく遊び、助け合っていたのだと思います。ただし、子どもがこのように成長していくためには親だけでなく、周囲の大人や社会の手助けも必要です。
ムッタとヒビトの家の近くに住むシャロン先生は有名な天文学者で、彼女の存在が彼らの宇宙への想いを更に加速させたのは言うまでもありません。
ただ、このシャロン先生の子どもへのかかわり方や説明の仕方、考えるヒントの与え方は子どもを持つ親ならだれでも参考になります。そして性格の全然違う2人にそれぞれ役割を上手に説明して、二人が助け合いながら成長し合うという道筋をつけていきます。
後に宇宙飛行士になる2人は子どものころから大人になっても上手に助け合っています。兄弟だからできる事。物語が進むと他の兄弟からもそれらを学び、そしてその兄弟にできなかった事を成し遂げていきます。
4.家族の想い
ムッタとヒビトの両親はとてもユニークです。基本的には「見守る」という姿勢ですが、無口の父親が無言のメッセージとも言うべき毎回変わるTシャツデザインは出てくるたびに注目するポイントです。2人の宇宙飛行士の両親であるという事を微塵も感じさせないように生活している両親ですが、宇宙飛行士の両親ならではが受けるNASAやJAXAからの対応など、現実もこんな感じなんだろうと思わせるシーンが沢山出てきます。
家族は見守るだけでなく、兄弟が困難にぶつかるたびに家族にしかできない方法で鼓舞し、そして兄弟の知らないところで憂慮に堪えない日々を送ります。
こういった環境もまたこの兄弟を成長させているのだと感じさせられます。
5.兄弟を取り巻く人々との関係
ムッタやヒビトの周りには沢山の優秀な人たちが現れます。宇宙飛行士という職業を目指すようになるには、シャロン先生に出会ったように、小さいころから多くの良い出会いもあるのだと思います。またそのような機会を見逃さないというのもとても大事です。
もちろん良い人だけでなく、ムッタやヒビトに意地悪をする人も現れます。こういった人に出会った時、この兄弟はどう行動すると思いますか?「2.失敗を次に生かす」で述べたように、彼らは問題を解決する方向に動きます。諦めない、嫌いな人にしないという事です。
これは人間社会において非常に重要な事を説いていると思います。宇宙飛行士は人類の未来を切り開く仕事とも言えます。このような職業に就く人は、人を大切にする人だという事です。
宇宙兄弟22巻ではNASAの職員「ゲイツ」とムッタとの話しが出てきます。よくある「お役所仕事」も考え抜き文句を言うのではなく、新しいアイデアを持ってしっかりと提案するという行動が、人の心を動かしていきます。私も大好きなシーンの1つです。特にギャラクシー・スパイシーバーガーを食べたゲイツのシーンには心が燃えました。宇宙兄弟には毎巻このように心燃え上がる感動シーンが必ず出てきます。
6.宇宙飛行士という職業からの学び
宇宙飛行士になるためにはどうすればよいかなんて、宇宙飛行士になりたいと思っていた子どもでも、あっという間に周りに感化され考える事さえしなくなってしまいます。「宇宙兄弟」では宇宙飛行士の選抜試験があり、宇宙飛行士になるための試練なども具体的に広く一般に知らしめた最初の本と言っても過言ではありません。
実際JAXAも宇宙兄弟がはじまってから宇宙飛行士選抜試験の広告を大々的に行うようになり、また宇宙兄弟を読んだ人たちの目にも止まりSNSで拡散されるようにもなりました。
これら試験や、合格後の訓練の様子を見ていて宇宙飛行士になるために最も重要な事に誰もが気づくことになると思います。私はNASAの宇宙飛行士と何度か直接話をしたことがありますが、その宇宙飛行士も同じことを言っていました。
これは宇宙飛行士だけでなく、実はすべての仕事において一番重要な事だと思います。是非皆さんにもこの物語から感じ取ってほしいです。
7.達成感の描写
宇宙開発は未知の領域の探求ですから、人類がやったことがない事を、沢山の経験や知識から「仮想」して成功させるものだと思います。それを達成した時の心の底から沸き起こってくるような感情を宇宙兄弟ではすごく上手に表現していると思います。これはサッカーの大会で優勝した時の歓喜やずっと勝てない相手に勝てたという勝者と敗者がいるというものとはちょっと違う気持ちです。
物語の中でムッタが小さな達成をしたときに人に見られていないところで喜ぶシーンが沢山出てきます。時には衝動を抑えられないといったユニークな表現の仕方もありますが(その行動をやりたくなる気持ちがとてもよく理解できてしまう)、小さくガッツポーズをしたり、人の事で喜ぶタイミングなど、よくこんなところまで描けて共感させるなと心の底から感心します。
8.リアルなストーリー
宇宙飛行士という選ばれた人しかなれない職業を目指す人にとって、この物語は絶対に読んでおいた方がよいものの1つです。それは小山先生の綿密な取材と情報収集により描かれたリアルなストーリーにあります。JAXAやNASAの環境は本物に忠実に描かれていて、私もケネディー宇宙センター周辺の宇宙兄弟で登場した場所には訪れたりもしました。
宇宙兄弟が連載を開始する以前は、独立行政法人の施設だけあってJAXAの一般展示室は平日のみの開放されていて、年に2回程度、土日に一般開放されていました。しかし宇宙兄弟連載後はつくば宇宙センターだけなく、調布や相模原の開放イベントにも、沢山の客が訪れるようになり、筑波宇宙センターには「SPACE DOMEスペースドーム」なる土日も見学ができる巨大な展示エリアもできました。
このスペースドームは無料で観覧する事ができ、中には案内のスタッフもいて時間ごとにJAXAの人工衛星やロケット、きぼうモジュールを詳しく解説してくれます。
そして、この建物の奥にはオフィシャルショップもあり、JAXAのTシャツや各種グッズが購入でいます。
このように宇宙兄弟出版の影響はJAXAをも動かす事態になっているわけです。
(※2024年8月現在改装工事中で、新しいスペースドームは2025年春にオープンします。)
9.宇宙という未知の領域への挑戦
そして、一番最後に挙げるのが「宇宙という未知の領域への挑戦」がJAXA、NASAを始め、多くの国々の協力によりどのように進められているか、どのような計画があるのかがリアルに描写されています。これは近い未来本当に行われるであろうミッションも含まれています。「宇宙兄弟」というタイトルですが、私の場合は宇宙に興味があったから手に取った漫画でしたが、それ以上に大切なことが書かれすぎていたため、宇宙については一番最後のポイントにしました。
宇宙兄弟が魅せる人類の素晴らしさ
宇宙はまだまだ分からない事だらけなのです。だからそれを解明していくという壮大な人類の目標があります。それは宇宙の起源を知るというよりは、自分たちは何者なのかという事への挑戦でもあるわけです。
逆説的に考えて、もし今これらを考えるのをやめて、今ある環境だけを考えて生きていったらどうなってしまうか。それらもこの宇宙兄弟の中で随所に感じさせるシーンが沢山あります。
究極の問いへの挑戦はいつも身近にあります。それに気づかしてくれたのが、この宇宙兄弟という物語です。
ペーパーバックの本を買い直したのは、自分の子どもたちがいつでも読めて、次の代にも読んで良しいからです。
宇宙兄弟は何も宇宙開発を啓蒙するだけでなく、私たちの生涯に関係する人と人との関係の重要性が描かれています。これは何を意味するか、私たちはどうすべきか宇宙開発に興味がない人にも読んでほしい物語です。